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フィリピン製造業基礎知識

製造マーケットの現状

フィリピン製造業基礎知識

世界経済が新型コロナウィルスの感染拡大によって大きく打撃を受ける中で、フィリピン経済も厳しい状況を迎えており、6月に入り、ADB(アジア開発銀行)は2020年におけるフィリピンの経済成長率を前年比3.8%減に下方修正しました。また、フィリピン日本人商工会議所と弊所が6月上旬に実施したアンケート調査結果によりますと、当地進出日系企業も「感染防止策による営業/操業の稼働率低下、国内外からの受注減等で、2020年の売上は前年比50~90%減少する」と想定されています。しかし、フィリピン政府は経済復興計画を策定中であり、2021年からは再び成長軌道に復旧することが期待されますので、もともとのフィリピン経済が有する成長性やビジネスチャンスを、以下に紹介させていただきます。

 

【製造拠点としての魅力】
はじめに、フィリピンといえば、1億人を超える人口を擁する若い国であること(中央年齢が23歳、日本の約半分)、英語が堪能な国民が多いこと、キリスト教信者が多いこと(国民の9割以上)、島が多いこと(7,000以上)の4点が主な特徴で、これらが相互に作用してフィリピンのビジネス環境を形作っています。

さて、ジェトロは毎年、世界各国で「進出日系企業実態調査」を実施しておりますが、フィリピンでのビジネスは好調を維持しています。フィリピンに立地する日系企業のうち7割近くが2019年の黒字を想定しており、ASEAN各国で最高水準となっています。また、2020~2021年の事業規模は「拡大」する企業と「現状維持」する企業がほぼ半々で、人員体制についても駐在員数は現状維持しつつ、現地スタッフ数を「増員」または「現状維持」とする企業数がほぼ半々となっています。

フィリピンの投資環境については、かねて「英語が堪能で、コミュニケーションを行いやすい、優秀な労働者を、比較的安いコストで、容易に確保できる」という人材に関する利点が高く評価されてきました。豊富な労働力人口に恵まれたフィリピンの賃金上昇圧力はインドネシアやベトナムなどASEAN各国より低くなっています。ドルベースで見ても、2019年の製造業における人件費総額(年間)は、フィリピンがインドネシアやベトナムを下回っています。このように国際競争力の高い人件費に支えられて、フィリピンの日系製造業における製造原価は他のASEAN各国に比べると低く、工場の生産性は高くなっています。

 

▶日本の製造原価を100としたときのASEAN諸国の製造原価/生産性

 

また、フィリピンでは税制優遇措置やワンストップサービスの充実した輸出特区が多数あり、多くの日系製造業が進出しています。

さらに、フィリピンでは安定的な経済成長が10年近く続き、国民の所得も着実に向上してきており、国内市場が年々拡大しています。輸出のみならず、最近では自動車、バイクなど、国内市場向け商品の生産を行う日系製造業も増えてきました。

 

 

【製造拠点にとっての課題】
他方で、日系製造業はいくつかの経営課題に直面しています。

まず、電気代の高さです。フィリピンの電力市場はほぼ自由化されていますが、政府補助金が交付されていないこともあり、インドネシアやベトナムなど近隣諸国に比べて電気代が割高となっています。

次に、魅力的な税制優遇措置を見直す動きがあります。仮に税制改革法案が原案のとおり実現した場合、輸出企業及び取引先の税負担増加や税務の煩雑化が懸念されます。関税や付加価値税の減免も、現在に比べて適用範囲が限定されるため、企業の資金繰りに与える影響や国際競争力の低下が懸念されます。

さらに、労働力が豊富なフィリピンではありますが、従業員(技術者、中間管理職)の人材確保、従業員の離職率の高さに苦慮する進出日系企業は少なくありません。熟練した技術者が不足した結果、満足のいく品質管理ができていない日系製造業が増えています。とはいえ、フィリピンには理工系人材を育成する学校は多数あり、待遇次第ですが、海外で活躍しているフィリピン人の技術者を国内にひき戻したり、海外に流出しがちな技術系人材を国内に留めたりする余地が残っています。

そして、タイ等と異なり、すそ野産業は未だ形成過程にあります。製品の国際競争力を高めるため、原材料、部品の調達に努める日系製造業は多いものの、「裾野産業が集積している(現地調達が容易)」と回答された企業の比率はフィリピンがASEAN主要国で最低であり、品質等の要求レベルを満たすサプライヤー確保に苦労されていることが窺われます。

 

 

【製造業界が期待できるフィリピンマーケットの将来性】

世界銀行によると、2018年のフィリピンにおける1人当たりGNI(国民総所得)は3,830ドルであり、高中所得国(3,935ドル超)入りは遠くないようです。フィリピン政府は、2040年までに高所得国(1人当たりGNIが1万2,235ドル超)に加わることを目指しており、安定的な経済成長を持続させる経済政策を重視しています。

 

国内市場拡大に伴って内需向け製造業が発展すれば、より多くの部品メーカーがフィリピンに進出される機運が高まるものと期待しています。また、所得向上につれて、消費者のし好やライフスタイルも多様化してきています。例えば、健康増進のためにスポーツやフィットネス等を行う人が増え、日本食のレストランもバラエティが豊富になりました。さらに、現在のフィリピンはマニラ首都圏に人とお金が集中していますが、ITを活用したビジネスアウトソーシング産業や観光産業等によって地方経済が成長し、地方の消費市場が発展する可能性も期待できます。フィリピンでは、日本の製品やサービスの品質やアフターサービスに対する信頼感は高く、コストパフォーマンスの良い商品やサービスには大いに商機があると思われます。

その他、フィリピンでもデジタル技術を使ったビジネスソリューションを提案するスタートアップ企業が少しずつ増えてきていますので、将来的には進出日系製造業が現地企業と提携してデジタル化を進める例も増えていくかもしれません。

 

日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ事務所長 石原孝志(いしはら たかし)(2020年)

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